星とカードとエトセトラ

西洋占星術と、タロット・オラクルリーディング

ペンタクルの5❄貧困と愛と救い

私はいつもライダーウエイト版タロットを使っていて、マルセイユ版は不慣れです。ライダーウエイト版の絵柄をもとに、人物を猫やユニコーンにしたり、色もとりどりの可愛いタロットカードが多くつくられていますが、眺めて楽しむには綺麗だし、怖い絵柄が苦手な方にもいいと思います。でも、人生はやっぱりふわふわした楽しいことばかりじゃなくて、時に残酷。
もとのライダーウエイト版の絵柄にはいろいろな意味が込められているので、それらをまったく無視したフィーリング重視なタロットは、私にはかえってリーディングしづらい面もあります。怖いとか嫌な感じのカードも、確かに人生の側面を表しているので、それらを遠ざけてしまうのもどうかなとも思います。

この、ペンタクルの5は貧乏カードと呼ばれていて、見るからに辛そうな絵柄です。降り積もる雪のなかを男女が歩いています。着ているものはボロボロで、コートもなく寒そうだし、男のほうは足が悪く杖をついています。ふたりとも生気のない顔をしていて、どこにも行く当てがない物乞いのよう。二人の後ろには教会のステンドグラスの窓があり、そこにはペンタクル(金貨)が五枚描かれています。暖かな黄色の明かりが漏れ出し、男女を淡く照らしていますが、この男女はその窓に目もくれず通り過ぎようとしているかに見えます。

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なんて酷い絵柄でしょうか。
私は一般に嫌われる死神や悪魔のカードより、こちらのほうが現実の厳しさを感じてゾっとします。誰だって生活の不安なく豊かに過ごしたいし、ボロをまとって雪のなかを歩くなんてまっぴらじゃないですか。みじめです。
「困ったときにも手を差し伸べれてみれば、すぐそばに救いはあるんですよ」
教会の明かりに気づいて、その門を叩きなさい、ということなんですが、この二人はどうもそんなことをしそうにない。ただ黙々と通り過ぎてしまうような感じです。

長いこと、このカードは嫌でした。
でも、あるとき、ふと思ったんですね。
この男女は救われようとはしていないんじゃないかなって。
もしかしたら、自分たちふたりでいることができたら、ボロを着ていても、寒くても、不自由でも、そんなことは耐えられるくらいの絆があるのかも?
教会に入れば暖かいけれど、そこでは神の教えに従順なる者だけが救われるわけです。
もしかしてこのふたりは異教徒、あるいは神の教えに従う気がないのかもしれないですね。たとえ貧困の底をさすらっても、ふたりの絆、ふたりの自由を手放したくないとか…

なんか、そんなふうな物語をこしらえれば、急にこのカードが意味深に見えてきました。たんに貧しさを表すだけじゃなく、救いに気づかないことを示唆するだけでなく、着るもの食べるもの暖かいベッドも救いの手も、なにもかもなくなるけれど、それでもふたりで雪のなかを歩いていくんですか?…みたいな。
それはそれで、愛なんじゃないかな、などと思ってみたんです。